ねこ館長日記

大谷弘至氏による若き日の一茶の俳諧観

9月15日、俳人で「古志」主宰の大谷弘至氏を講師にお迎えして、今年の第3回一茶記念館講座を開催しました。大谷さんは、著書もある一茶研究者であり、また今年からは、当館が主催する小林一茶全国小中学生俳句大会の選者もお勤めいただいています。

今回は「若き日の一茶」と題してご講演いただきました。現在確認される一茶のもっとも古い旅は寛政元年(1789)、一茶27歳のときの奥州への旅です。一茶はこの旅を「奥羽紀行」にまとめたとされますが、それは現在まで発見されておらず、どんな旅をしたかは不明のままです。恐らくは、松尾芭蕉の「奥の細道」の旅路をたどったのではないかと推測されているだけです。

しかし、歴史を紐解くと、少し違う様相が見えてきます。この旅のわずか6年前、東北地方は天明の大飢饉により数十万人に及ぶ餓死者を出しています。他の文献から、一茶が旅した頃は、その惨状の痕跡が未だ色濃く残っていたと推測されるのです。一茶は奥州の旅で、図らずもそうした悲劇のあとを目の当たりにしたのではないかと考えられます。

大谷さんは、若き日の一茶はこのときの経験から、災害に対する人間の無力さ、はかなさを強く意識するようになったのではないかと考えています。

こうした視点は、これまでの一茶研究にまったくないものです。今回は、こうしたお話を中心に、若き日の一茶の俳句の評価をお話いただきました。